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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)230号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一ないし三の事実、審決の理由の要点のうち、本願考案の要旨の認定、第一、第二引用例に審決認定の記載があること(但し、第一引用例に用紙の基材としてプラスチツクが用いられることが説明されているとの点及び第二引用考案が本願考案と同じ層構成を有するとの点を除く)、本願考案と第一引用発明の一致点(但し、両者がともに用紙に関するものであるとの点を除く)及び相違点か審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1  取消事由(1)について

(一)  前記本願考案の要旨及び成立に争いのない甲第二、第三号証によれば、本願考案は、蛍光地紋入り合成紙に関するもので、「IDカード、パスポート或いは証券等の証明カード乃至紙葉は証明機能を有することが必要であるとともに偽造、変造等の改ざんを防止し得る機能を具備することが必要である」(甲第二号証三頁一〇行~一三行)ところから、「改ざん防止手段として従来採用されているものの一つとして、合成紙の表面に蛍光塗料によつて地紋等を施したものがある」(同三頁一六行~一八行)が、右の合成紙の場合、「蛍光塗料による地紋等が合成紙乃至カードの表面上に施されているために、使用に際して耐久性に欠け、また、剥ぎ取りが比較的容易であり、また、蛍光塗料の性質に起因して耐熱性や耐候性に劣つていた」(同四頁六行~一〇行)ことから、本願考案は、右欠点を解消し、かつ、表面筆記特性を有する蛍光地紋入り合成紙を提供することを技術的課題とし、その課題解決のため、「合成樹脂製基材の表面上の少なくとも一部分に蛍光インキによつて蛍光地紋若しくは蛍光着色層を形成し、かつ前記基材の表面上の少なくとも一部分に前記蛍光地紋若しくは蛍光着色層を覆う紙加工部を形成」(同四頁一八行~五頁二行、但し、甲第三号証による補正を含む。)するものであり、右構成によつて「紙加工部4によつて合成紙上に筆記適性、印刷適性が与えられ、また、蛍光地紋3が紙加工部4によつて覆われているから、通常の状態においては蛍光地紋は視認不可能となり、カード等の真偽を検査する場合にだけ、ブラツクライト等を使用して視認することとなり、改ざん防止の機能を顕著に発揮する。しかも、蛍光地紋3が紙加工部4によつて覆われて保護されているところから、蛍光地紋3の剥ぎ取りが不可能であり、耐久性にもすぐれ、かつ熱や太陽光に曝されることもなく、耐候性に優れたものとなる」(甲第二号証五頁一七行~六頁八行)という効果を有するもので、基材2は、「例えば一五〇μ程度のシート状であつて、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン等の合成樹脂製である」(同第五頁七行~一〇行)ものが用いられ、蛍光地紋3は、「基材2上に蛍光インキを使い、スクリーン印刷、グラビア印刷、平版印刷若しくは凸版印刷によつて印刷形成される」(同五頁一〇行~一二行)ものであり、更に、紙加工部4は、「クレー、炭酸カルシウム等によつて白色層として基材2の表面上に形成され、かつ、蛍光地紋3を覆つている」(同五頁一四行~一六行)ものであることが認められる(別紙(一)参照)。

(二)  一方、第一引用例に審決認定の記載があることは、用紙の基材としてプラスチツクが用いられることが説明されている点を除き、前叙のとおり当事者間に争いがないところ、右争いのない事実と成立に争いのない甲第四号証によれば、第一引用発明は、被告主張のとおり、赤外線刺激で発光する蛍光体によつて潜像の作られた「潜像入り用紙」に関するもので、偽造、変造等の改ざん防止機能を有する潜像入り用紙を提供することを技術的課題とし、その解決のために、赤外線刺激でのみ発光する蛍光体を用いて用紙の基材に潜像を形成するという構成を採択したものであること、同引用例には「なお、本発明を、主として紙を用いて構成した場合について述べてきたが、本発明は、紙に限らず、プラスチツク、布、ゴム又は金属の薄板などにも容易に用いることができ、」との記載があることが認められる。そうとすると、同引用例は右プラスチツク等の基材に蛍光体によつて潜像を形成したものを含めて「潜像入り用紙」と記載しているのであつて、それが印刷適性、筆記適性を有するか否かを問わないものと認めるのが相当である。

(三)  審決中の原告指摘箇所の「用紙」の文言も右と同様の趣旨であることが明らかであるから、原告指摘の審決の認定に誤りは認められず、原告の取消事由(1)の主張は失当で採用できない。

2  取消事由(2)について

(一)  第二引用例に審決認定の記載があることは、第二引用考案が本願考案と同じ層構成を有する点を除き、前叙のとおり当事者間に争いがないところ、右争いのない事実と成立に争いのない甲第五号証によれば、第二引用考案は、偽造防止機能を有し、荷札、商品用カード、包装紙等に用いることのできる材料である用紙を提供することを技術的課題とし、その解決のために、原紙上に形成した印刷部に印刷面と同系統色のクレーコーチング層を塗被するという構成を採択したものであり、右構成の採択により偽造防止機能に加えて、原紙上の印刷部の損傷防止及び印刷適性面の形成という機能をも併せ有する材料を提供し得たものと認められる。

(二)  右認定の第二引用考案の内部印刷塗被紙と前認定の本願考案の蛍光地紋入り合成紙の基本的な層構成を比較すると、両者は「基材」とその上に形成された「印刷部」(本願考案では「蛍光地紋若しくは蛍光着色層」)と該印刷部を覆つて該印刷部を保護する「クレーコーチング層」(本願考案では「紙加工部」)とからなる点で同じ層構成であると認めることができる。もつとも、本願考案は合成樹脂を基材として使用したものであるのに対し、第二引用考案はアート加工用原紙を基材として使用したものである点で差異があることは原告指摘のとおりであるが、第二引用考案のアート加工用原紙は、本来筆記適性、印刷適性を有するがクレーコーチング層によりこれが減殺されることは原告の自認するところであるから、それに要求される機能は同考案の内部印刷塗被紙に強度を付与することに過ぎないところ、紙葉若しくはカード類において紙とプラスチツクは強度を付与するための材料としては互換性があることが周知であることは原告の自認するところであるから、結局審決の同旨の認定は誤りとはいえない。

原告は、第二引用例におけるクレーコーチング層はもつぱら印刷部を被覆しすかし効果を得る機能を有するものであるのに対し、本願考案のそれは合成紙に印刷適性、筆記適性を与える機能を有するもので、両者は技術的な機能が異なる旨主張する。しかし、第二引用例のクレーコーチング層がアート加工用原紙の印刷適性、筆記適性を減殺させた後に再びこれを与えるものであることは原告の自認するところであるから(このことは前記甲第五号証によつて認められる第二引用例中の「場合によつては、原紙の他面にクレーコーチング層3を形成せしめて、その面にも印刷適性を与えるものである。」との記載からもうかがえる。)、第二引用考案のクレーコーチング層は、原告主張のすかし効果を得る機能のほかに、印刷適性、筆記適性を与える機能をも有することが明らかである。そうとすると、両者は機能的にも同一であるから、原告の右主張は採用できない。

したがつて、原告の取消事由(2)の主張は採用できない。

3  取消事由(3)について

前記認定の第一引用例及び第二引用例に記載された技術内容によれば、第一引用発明の「潜像入り用紙」と第二引用考案の「内部印刷塗被紙」とはともに偽造防止用の用紙(前記二1で述べた「用紙」と同義、以下同じ)を提供することを技術課題としているものであつて共通の技術分野に属していると認めるのが相当である。

また、合成紙の定義が原告主張のとおりであることは当事者間に争いがないが、前記認定の本願考案の技術内容によれば、本願考案の「蛍光地紋入り合成紙」も基材上に地紋を形成せしめた偽造、変造等の改ざん防止機能を有する用紙を提供することを技術課題とするものであるから、前記両引用例と共通の技術分野に属する技術であると認めるのが相当であるところ、本願考案の蛍光地紋入り合成紙において合成樹脂製基材の表面上の少なくとも一部に蛍光インキによつて蛍光地紋若しくは蛍光着色層を形成し、紙加工部が未だ設けられていない段階のものは、第一引用例において用紙の基材としてプラスチツクを用いその上に蛍光インキによる潜像を形成させたものと同じ構成のものということができる。

そして、前記のとおり、第一引用例と同一の技術分野に属する第二引用例には、基材の表面に形成せしめた印刷部を保護して損傷、偽造を防止するために印刷適性を有するクレーコーチング層で該印刷部を覆う技術が開示されているのであるから、第二引用例記載の右技術を、第一引用例記載のプラスチツク製基材上に形成された蛍光地紋等の印刷部の保護、偽造防止手段として適用し、本願考案の蛍光地紋入り合成紙と同じ構成、効果を有するものを得ることは当業者ならば格別の創意工夫は必要としないものといわざるを得ない。

したがつて、右と同旨の審決の判断に誤りはなく、原告の取消事由(3)の主張は採用できない。

三  以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも失当であり、審決にはこれを取消すべき違法な点はないから、原告の本訴請求を棄却する。

〔編註〕本願考案の実用新案登録請求の範囲第一項は左のとおりである。

合成樹脂製基材の表面上の少なくとも一部分に蛍光インキによつて蛍光地紋若しくは蛍光着色層を形成し、かつ、前記基材の表面上の少なくとも一部分に前記蛍光地紋若しくは蛍光着色層を覆う紙加工部を形成してなる蛍光地紋入り合成紙

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